オモチャのピアノが、調子外れな音を出している。  調律も何もない、古くて小さなピアノだったけど、理由はそれだけではなかった。
それを弾いているのは、トルタのはずだった。トルタのピアノの腕前は、その歌ほどでは なかっただろう。でも、歌の伴奏のためだけという理由で習い始めた経緯を考えれば、 充分すぎる。その、トルタのピアノが、今は聴くのに耐えないほどだった。 「……アル」  涙声で、トルタはそう呟いた。ベッドからほんの少し離れた場所。私にはまるで背を 向けているようだった。  その、トルタを見つめているはずの私は――私ではなかった。  私がここにいる理由。トルタが泣いている理由。そして、クリスが私を忘れてしまった
理由。 「姉さん」  全ての始まりはあの日――
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